いよいよ「チェーザレ」単行本発売まであと一週間と成りました。
単行本を心待ちにしてくださってた読者の方には、本当に長い間お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
連載開始から一年七ヶ月・・・怒りを越えて呆れてしまっている方も多いと思われますが(苦笑)
この期におよんで、さらに憤慨させるような事態が。
はっきり言って単行本の値段、高いです。
要するに1~2巻、分厚いからなのですが。こうなった理由はまあいろいろございますが・・・、
なんとか切りのいい所まで詰め込みたいと欲を出したため、分量が通常の単行本の許容量越えてしまいまして、
本編230P越えに加えて、当時の古地図を元にした都市の説明、家系図、人間(派閥)相関図等を追記したら、
こうなったという結果です。日本人にとって西洋史は正直馴染みの薄いジャンルだと思われ、物語に入りやすくするために
やむを得ずこのような形を取らせて頂きました。
またストーリーにおいても、ヨーロッパ大陸という広大な範囲における国対国の情勢をまず踏まえる必要があり、
そのため内容的にやや堅苦しさを感じる描写も多々あります。
主軸のチェーザレを語るにはとても個人レベルの問題では片付けられず、いろんな角度からのアプローチを試みないと
逆に混乱を招く恐れがあり、そのためにまずは時代考証からじっくり描き込む事から始めなければなりませんでした。
時折15~6世紀のイタリアを日本の戦国時代になぞらえる方がいらっしゃいますが、いやもう、それの比じゃないと思われます。
イタリア自体が小国の集まりな上、さらにフランス、スペイン、ドイツ、スイス、イスラム勢力、
これだけの国と人種が入り乱れての乱世、加えてカトリック、ユダヤ、イスラムの宗教論争という追い討ち。
この混沌さは尋常じゃないです。
ルネッサンスは昔から描いてみたい世界ではありましたが、本音を言うと恐ろしくて中々手が出せずにいたのが実情でした。
しかしながら、そろそろ着手しないと、こちらの気力、体力がついていけなくなりそうだったので(苦笑)
恐れ多くもついに立ち上げてしまったという訳です。
二年前、この話に取り組みたいと編集部に伝えた折、編集長から西洋史に馴染みのない読者が多いため、
チェーザレというキャラクターに超能力等を与えヒーロー度を上げてはどうかという案が出たときには、
正直愕然とした記憶があります(笑)。
チェーザレに関して日本には一部コアなファンがいるものの、よく知られているのは
彼のプロフィール、及び家族間の下世話な話等、週刊誌ネタのような話ばかりがクローズアップされており、
歴史的な考察からの情報が乏しく、私にとっても兼ねてから謎な人物でした。
幸いイタリア文学者の原氏と出会い、膨大なデータから厳選して頂いた原書を訳して頂いたおかげで、
ようやく霧が晴れてきたような今日この頃です。
とはいえ、漫画ですから何も教科書的に描く必要は全くなく、超能力者であろうが宇宙人であろうが、
面白おかしければそれはそれで無問題な訳でして。
しかし私の場合、ぎりぎり面白さは追求できたとしても、おかしさまでは追求する余裕もなければ技量も持ち合わせてなく、
作家性の問題でこればかりは何ともしようがありません。
100%エンターテイメントを期待している読者の方には、残念ながら肩透かしを食らう結果になり兼ねない事を
この場でお詫びしておきます。
と言っても100%史実通りではありませんので(逆に100%史実こそ無理)、作品中にフィクションも多々織り込んでいます。
まずアンジェロという登場人物ですが、彼は全くの私の創作上のキャラクターです。
チェーザレの置かれている立場があまりにも、現代人の私たちとかけ離れて特異なため(貴族、枢機卿、教皇の息子等)
チェーザレ視点だけでは、話についていけなくなる恐れがあり、そのために限りなく現代人に近い感性の視点を
配置させねばならず(側近のミゲルでは関係が近すぎてぼやけてしまいがち、マキャヴェッリはまだ頭角を現せていず、
後にチェーザレと敵対する立場に置かれるので無理がありすぎ)
そこで敢えてこの時代をフラットに見れる立場の人間、アンジェロという架空の人物を登場させました。
またチェーザレのルーツとも言えるスペインの情勢と今後のヨーロッパの変動期を予見させるためにコロンブスを登場させ
(この時期の説明においては格好の立役者です)、
後に軍人となるチェーザレに深く関わってくるミラノの情勢については、これも立役者の一人であるダ・ヴィンチを強引に
ミラノからフィレンツェへ里帰りさせ、チェーザレと引き合わせる事で説明してしまいました(笑)。
この時期ミラノ公、イル・モーロとダ・ヴィンチとの間に、ちょっとした衝突があり(作中に出てくる騎馬像の件です)
ダ・ヴィンチはミラノ公の元を離れようとした形跡が記述として残っていたため、ここぞとばかりに脚色させて頂きました。
これらは全て私の創作です。
後はミゲルのユダヤ人説ですが、これも諸説で取り上げられている事ではありますが、本当の所はわかっておりません。
「ではなかった」という記述がなければ、それは「そうでもあった」になる訳で、これが史実物の醍醐味なのでしょう。
今後も出来る範囲の「そうでもあった」を見つけ、私なりの見解を入れて自分なりのエンターテイメントを追求していけたらと
思っております。
因みにミゲルのユダヤ人説は異教徒問題に焦点を当てるための設定です。
「異教の神」と称されたチェーザレにとって、この問題は無視できない重要事項であるという事も追記しておきます。
と、振り返ると何とも堅苦しい話ばかりで申し訳ない。しかしながら、この機会にちょっと西洋史でも覗いてみようかと思われた方、
秋の夜長、ひとつ手にとってみるのも一興かもしれません(笑)。
なお単行本発売に連動して10月26日発売モーニング48号より連載を再開します。
※単行本の装丁においては、いろいろ御意見ございましょうが、突き詰めたらこうなりましたという感じです。
「突き詰めなくて結構!」と販売から突っ込まれそうな勢いですが(苦笑)、ルネッサンス様式を突き詰めたら、
もうこれしか思いつきませんでした。
色といい文字のニュアンス、配置、どれを取っても美しく、デザイナーの有山さんには本当に感謝しております。
販売上、気を使われて裏表紙に作中のワンシーンの絵を入れて頂いたりしたものの、
そのイラストが我ながら何だか美しい白壁に描かれた落書きのように見え、いや、もう取り外して下さいとお願いしたような
次第です。
この場を借りて関係者各位、本当に心よりお礼申し上げます。